First Day Inside Someone Else ch.4

誰かの中の1日目

西村 烏合

 

chapter 4


ムンタザの青々とした芝生が風を受けて揺れている。リラックスした人々が気持ちよく伸びをする姿が見える。そんな中で思案顔をしているのは自分だけかもしれない。アレックスはそう思った。しかし、ここでは誰も他人のことなど気にしていない。一面の緑の芝生と適温に調整された心地よい温度に、外の気候など忘れて全員無防備になっている。風が吹き抜けても、この空間だけは暖かい。寝転んだまま起き上がれないのではないかと思われる腹が小さな丘のように点在していたり、今にも折れそうなほど痩せた青白い体が虚しい期待とともに日光にさらされていたり、全体の景色は、美しい存在が憩う楽園とはいかない。しかし休むことを知らないキャラバン・プラネットでは、ムンタザは貴重な休息場所と言えた。
 セスは昨日の夜から帰って来ていない。一人の時間が欲しいと言って出て行ってから。
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First Day Inside Someone Else ch.3

誰かの中の1日目

西村 烏合

 

chapter 3


「三人?それとも四人で?」
「三人だ。セミヴァーチャルで」
 そう言ってアレックスはセスの肩を掴んで自分に引き寄せた。セスは整ったマネキン顔をちらりと見上げたが、合わせてその腰に手を回した。アレックスは見事な作り笑いを浮かべている。
「セミヴァーチャルで。そんなきれいな顔じゃ、外身を脱ぐ必要なんてないものね」
 受付係のカルキノス人は、整った顔立ちで笑顔を作る男を面白そうに見ながら言った。暖色の照明の下で、内側から光をあてたように輝いているカルキノス人の目は、見つめる者を特別な空間にいるかのように錯覚させる。ほとんど服を着ていない男性、女性、性別のないヒューマノイドのホログラムがロビーに投影されてさえいなければ、ここが売春宿だとはわからない。
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First Day Inside Someone Else ch.2

誰かの中の1日目

西村 烏合

 

chapter 2


キャラバン・プラネットで味わえない食べ物はたくさんある。その料理法が自分の惑星外へ流出するのを防ぐために、人を死刑にする種族だっている。そのくせ、客を迎えると最高の料理でもてなしたがる。自慢はしたいが、自分たち以外がその料理で褒められるなんて事になると考えただけで、気が狂いそうになるらしい。ある高級恒星間クルーズ船の料理長になった人物は、宇宙一おいしい料理を出すシェフとしてクルーズ船と共に表彰された。だがその直後に原因不明の病で料理長は死亡した。その土地だけの味というのは、いろいろな場所にある。
 だがキャラバン・プラネットほど、様々な料理を食べられる場所はない。味わえない食べ物はあるが、この一つの惑星の中で提供されている料理の豊富さでいえば、どんな惑星にも劣らないだろう。テラの味を提供しているのはエンパイアピザだけではない。アレックスはアースタイムの前に自分のホバーバイクを停めた。
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First Day Inside Someone Else ch.1

誰かの中の1日目

西村 烏合

 

chapter 1


なぜ自分がここから物事を見ているのかわからない時がある。
解放されるのは、自分がどこに居るか忘れている時。
でもここはそんなに広くない。走ろうとして檻に頭をぶつけて、自分が閉じこめられていることを思い出す。
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