Farther Than Pale Blue Dot

ここは淡い青よりも深く遠く

Farther Than Pale Blue Dot

2019

西村 烏合

地球の植民惑星生まれの人間が、ケタルティオイドという非ヒューマノイド種族の一人に騙されて非ヒューマノイド(トーカー)-ヒューマノイド(シーカー)間パートナーシップの相手にされる話です。
ケタルティオイドはシェプシフティング能力があり、見かけ上お互いヒューマノイドですが、人間の女性にも男性にもなんにでもなれるんで、人間は困惑します。

chapter 1
chapter 2
chapter 3
chapter 4

 

この宇宙では人間はそんな偉い種族じゃないんで
ヒューマノイド=シーカー
非ヒューマノイド=トーカー
という呼称があります。

ただ本編中にもあるように、人間側が非ヒューマノイドとかいう言葉を使用することはありますが、失礼な感のある表現って感じですかね。

一個前の『誰かの中の1日目』ではこの呼称を思いついてなかったんで、意図的な使用ではなく一般的な表現としてヒューマノイドという言葉を使っちゃってますが、いちおう同じ宇宙です。

Farther Than Pale Blue Dot ch.1

ここは淡い青よりも深く遠く

 

chapter 1

いつ、こうでなきゃいけないってのに取り憑かれるのか?
私たちは地球という惑星から植民しました。そう教えられた時か。それとも。

「サー、失礼ですが階級を確認してもよろしいでしょうか」
 おれはグラスを下ろしてバーテンダーに笑いかけた。今夜あなたの部屋に行ってもいいわ。そんな笑顔で。彼はニコリともせず持っていたタブレットをカウンターに置いた。
「つれないな。少佐の誘いを断るのか?」
「連邦軍調査船史上、最も高い階級ですね。本当なら」
 タブレットには、地球連邦軍人というより反政府組織のメンバーみたいに世の中を憎んでる顔のおれの写真が表示されていた。写真の横の階級欄には何も書いていない。
「ミスター・キュビワノ、ここは士官専用エリアです。系外雇用者(ノン・アーサー・エンプロイー)の方は、申し訳ありませんが退出してください」
「ご丁寧にどうも。認めるよ、残念ながらおれが少佐じゃないことは。でも見てほしいんだが、十七の時から地球のために働いてる。なのにタダ酒の一杯も飲ませない気か?」
 バーテンダーは、助からない死にかけの動物を見るような目でおれを見た。
「あんた、ここへ来てから何杯飲んだかも思い出せないらしいな。まだ仲間でいたかったら今すぐ出ていけ。それか、上着を預かろうか〝ミスター・ニー〟」
「なにか問題か?」
 おれがバーテンダーを殴る前に暑苦しい声が響いた。忠誠心と大胸筋ではち切れそうな制服と、その胸のマシュー・P・ジョーンズ少尉という立派な地球の名前からおれが顔をそらすと、おれの左耳のインダストリアル・ピアスに少尉は眉を顰めた。そしてすぐにタブレットに視線を移すと、さっさとおれを連れ出して事態を処理しようとした。
 ふらつきつつもおれは我ながら素早く身をかわして椅子から降り、少尉の筋肉質の腕から逃れたうえに転ばずにいられた。
「バーに来たときは少し職務を忘れるべきですよ、少尉」
 ジョーンズ少尉は一瞬こっちを睨んだが、自分を貶めることはないと思い出したのか毅然と背筋を伸ばして、施しをするかのように言った。
「自分の船に戻れ、調査員。きみの奉仕には感謝している」
 おれは間違っていると思った。わかっていたから。その程度の言葉で引き下がるべき現実も十二年間の事実も、事実に怒ることも。だからおれは間違っているのを承知で少尉の顔を殴り、周囲がどよめいてバーテンダーは今すぐおれを除隊させるためにセキュリティを呼ぼうとし、何人かの士官は加勢しようと席を立った。
「誰も余計な体力を使わなくていい」自分の声のデカさに驚き、おれはトーンを落とした。「奉仕する気なんかなかった。見返りがもらえないとわかったから降りたんだ。そのつまらないデータベースもすぐ修正されるはずだ。おれは自分の意思で軍を辞めた」
 もう必要ない制服の上着をバーの床に脱ぎ捨てて、自分の腕にある植民星の一つを表すタトゥーを見せつけながら、おれはその場の全員がよく聞こえるように言った。
「二度と、こんなクソ連邦軍には勤めないと誓う。あんたらにも今後一切迷惑をかけない。ご安心を」
 おれはくだらない地球連邦軍士官専用のくだらないラウンジを出て行った。

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